萱アートコンペ2024 10/6~10/27

Comment by Rieko Koyama

萱アートコンペ2024 審査講評  
小山利枝子 
2023/9/11

     萱アートコンペの応募作品を今年も審査させていただきました。このコンペがスタートした初期応募作品と比べると、作品の完成度は格段に上がり、技法やイメージも多種多様になり、表現に対してその技法が必然的に生み出されたのだと思える説得力のある作品が審査会場である昭和蔵の壁面いっぱいに並べられました。
     その中で私が最初に目を止めてじっくりと細部まで見入った作品が髙橋周平さんの『色彩が生まれる』です。かなりなリュームで盛り上げられた絵の具の塊が随所にあるにも関わらず、その強い物理的存在感と画面上部にむかっていく自然な絵画的奥行きを共存させている事、そしてそれぞれの部分の色彩が濁る事なく油絵の具独特の魅力を活かして鮮やかに輝きながら調和を持って響き合っている事など、画面をコントロールする優れた画力と絵画表現に対する情熱を感じました。
     対照的にモノクロームの世界を追求してきた吉田峰雄さんの『光の対話』に注目しました。吉田さんの作品はこのコンペで毎年拝見していますが、近年はより自由に軽やかな画面構成に変化し技法も年々洗練され、絵の具の物質感が消えてまさに画面が光として昇華された優れた絵画となっています。
     吉田さんのように、このコンペに複数回出品されて年々表現が充実している方が何人もおられます。そう言った方々の制作の動機として、このコンペが機能している事を実感する審査会でもありました。

萱アートコンペ2023 審査講評 優秀賞受賞作について  
小山利枝子 
2023/9/15

     審査会の時は、広い昭和蔵の壁に全ての応募作品が並べられます。
     古川奈津季さんの作品は今回の応募作品100点の中にあって最初に目に飛び込んできた数点の中に入っていました。
     画面は小さな丸い形と少ない曲線で区切られた形で構成されていますが、使用されている色彩もかなり限定され、その上彩度も抑えられて決して鮮やかなものではありません。構成要素を絞った上で主役であるブルーの頭を持った丸い形の存在感が印象に残るように微妙な陰影をコントロールするなど、画面の中に立体感や空間のニュアンスを生み出すための神経が行き届いています、マチエールも穏やかで全ての造形要素が丸い塊の存在感に意識を向けられるように構成されています。抽象的な形しか登場していないにもかかわらず決して抽象絵画とは思えず、なんらかの心象風景のように感じられます。
     抽象画には見えないが、現実には存在しない不思議な風景。その曖昧さがこちらの想像力を掻き立ててくれます。
    良質な絵画でしか刺激してこない何かをもったこの作品は優秀賞に相応しいと思いますし、今後この作家から生み出されるであろう作品に期待を寄せています。

萱アートコンペ2020 審査講評  
小山利枝子 
2020/10/03

     作品が整然と展示された審査会場の昭和蔵に足を踏み入れた瞬間に応募作品の充実度が会場の緊張感を生み出しているのを肌で感じました。萱アートコンペは回を重ね全国からの応募作品も順調に増えています。それぞれのバックボーンの中で制作し表現を発表する場を求めている多くの作家や作家の卵の存在の重さを感じながら審査させていただきました。小さなサイズに限定されているのが萱アートコンペの特質です。小さなスペースに素材と技法を駆使してコンセプトによる情報や感覚的イメージを取り込み構成した結果が作品になっていて、大画面で体感するのとは対局にある、作家の息吹や意識がはっきり感じられるという特徴があるでしょう。別な言い方をすれば作家が表現の先に何を目指しているのかが感知しやすいとも言えます。疋田さんの作品は、絵の具を通して画面と対話し、茫漠とした着地点を遥か遠くに置いて、その場所を探している。簡単に答えを出さないで自分の表現の行き先を探しているリアリティーが、他の作品とは全く異質な強さを持っていました。

萱アートコンペ2019 審査講評  
小山利枝子 
2019/09/14

 4回目にして応募作品数は倍増し、各作品の完成度も格段に上がった。作品間の差を見極めるためには、より表現の本質的地平についての問いかけを自らにしながら各作品と対峙する審査となった。
 作者の脳内にあるイメージに向け一直線に作画してある作品はどこか平板で奥行きに欠ける。私が探したのは、作者の意識がイメージやコンセプトと現実としての画面の間を行き来しながら、手の感触を通して画面と丁寧に対話している作品だ。その意識と行為を通して作品は作者から自立し始め、観る者の意識や感覚に侵入して来る。絵画表現の持つ静かだが根源的な力だ。

 三須登喜子氏の作品は最小限に限定された図像とマチエールが、触覚的な感覚を伴うイマジネーションを喚起して、応募作品の中でも際立って洗練された魅力を持っていた。また市川絢奈氏の作品の対象や画面を見つめる息遣いを感じる絵画的リアリティーが強く印象残った。

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