萱アートコンペ2023 審査講評 / Kac2023フライヤー掲載
山貝征典
2023/9/15
たとえば抽象度の高い絵画作品に《座る人》などのタイトルがついていれば「なるほど、ここのかたちが女性が座ってるシルエットに見えるかもしれない…」と考えたりします。またふんわりしたやわらかいタッチの作品なのに《怒り》などとついていたら「なぜだろう?」「逆にそういう悩ましさをねらってるのか」など想像がふくらみ、相乗効果を生むこともあります。そんな中今回の出品作品のうちいくつかに、タイトルの付けかたが作品・表現にとってマイナスになるようなものが、いくつかありました。タイトル部分での自己表出や思いが強すぎたり、作品本体と相性がわるく、せっかくつくりあげた絵画とぶつかってしまうというものです。
美学者の佐々木健一はその著書『タイトルの魔力』の中で、美術作品を見る際の鑑賞者の態度を2つに分けました。真っ先にキャプションをのぞき込み誰が描いた何という絵なのかを確かめる「教養派」と、キャプションには目もくれず静かに絵だけを見続ける「審美派」がいる、というものです。自分は鑑賞の態度としてはかなり審美派だろうと思いつつ、今回のタイトル付け課題にふれて、やっぱり教養派でもあるし、そしてどちらも大事だと気づかされました。
アート系コンペではその作品本体はつくるしかないので、やればおのずとできあがります。同じくらい重要なのがその周辺に必ずある要素…額装のクオリティ、掛けるための紐やヒートンの工夫、そのタイトルは適切か、またそれがキャプションとなり絵と並んだ時にどう見えるか、などへの想像力と配慮です。このように総合ポイント勝負の面もあるのがコンペですので、また今後の展開が楽しみです。
萱アートコンペ2020 審査講評
山貝征典
2020/10/02