萱アートコンペ2023 10/1~10/22

Comment by Masanori Yamagai

萱アートコンペ2023 審査講評 / Kac2023フライヤー掲載  
山貝征典
2023/9/15

     アート作品のタイトルづけとその意義

     たとえば抽象度の高い絵画作品に《座る人》などのタイトルがついていれば「なるほど、ここのかたちが女性が座ってるシルエットに見えるかもしれない…」と考えたりします。またふんわりしたやわらかいタッチの作品なのに《怒り》などとついていたら「なぜだろう?」「逆にそういう悩ましさをねらってるのか」など想像がふくらみ、相乗効果を生むこともあります。そんな中今回の出品作品のうちいくつかに、タイトルの付けかたが作品・表現にとってマイナスになるようなものが、いくつかありました。タイトル部分での自己表出や思いが強すぎたり、作品本体と相性がわるく、せっかくつくりあげた絵画とぶつかってしまうというものです。
     美学者の佐々木健一はその著書『タイトルの魔力』の中で、美術作品を見る際の鑑賞者の態度を2つに分けました。真っ先にキャプションをのぞき込み誰が描いた何という絵なのかを確かめる「教養派」と、キャプションには目もくれず静かに絵だけを見続ける「審美派」がいる、というものです。自分は鑑賞の態度としてはかなり審美派だろうと思いつつ、今回のタイトル付け課題にふれて、やっぱり教養派でもあるし、そしてどちらも大事だと気づかされました。
     アート系コンペではその作品本体はつくるしかないので、やればおのずとできあがります。同じくらい重要なのがその周辺に必ずある要素…額装のクオリティ、掛けるための紐やヒートンの工夫、そのタイトルは適切か、またそれがキャプションとなり絵と並んだ時にどう見えるか、などへの想像力と配慮です。このように総合ポイント勝負の面もあるのがコンペですので、また今後の展開が楽しみです。

萱アートコンペ2020 審査講評  
山貝征典
2020/10/02

     初めての審査参加となりました、ありがとうございました。新入りだからこその「まだよくわかっていない、全体像をつかんでいない視点」をこの場に入れることが自分のミッションだと思い、審査にのぞみました。ポイントとしては、このご時世だからこその前向きで、鑑賞者に新しい体験をもたらすようなもの、ということに注意して選考しました。
     特に惹かれた作品は、村松範男さん《めぐり逢い》の色選択のセンスのよさと軽さ。また長雪恵さん《すすむ》の構成の楽しさ、優しいけれど迫力がある画面です。さらにその他受賞・入選の作品はそれぞれはっきりと伝わってくる、一定のクオリティの高さと魅力があり、審査員の討議の中でもスムーズに集約していったように感じます。
     応募作品全体を見た中で感じたのは、クオリティが大きく二分しているようだ、ということです。アートになっている、またアートとして成り立っており鑑賞者を吸い寄せる力がある作品からは、いろいろな着眼点が生まれ、コメントが次々出てきます。一方同じ空間に並んでいても、何度通過してもあまり視界に入ってこない作品は、アートとしては何かが足りないのでしょう。アート的なものを造形・創作・表現することには、ほとんどの場合意味がありコンセプトもあります(自覚していなくても)。しかし、ねらいや動機がはっきりしていなくても、不順でもあるいは純粋すぎても、最終的につくりだされたものが優れてさえいれば、アートとして私たちに伝わってくるものが必ずあります。そのような作品や表現に出会えるのはとてもうれしいことなので、今後もまた楽しみにしています。