萱アートコンペ2023 10/1~10/22

Comment by Kyoko Maruta

萱アートコンペ2023 審査講評 大賞受賞作について  
丸田恭子 
2023/9/15

     佐藤仁美さんの作品は一点出品ということもあり最初は目立ちにくかったのですが、どんどん気になる作品として位置していきました。
     全ての画面を厚塗りで執拗に覆い尽くす手法(これが決して良くないと言っているのではありません)ではなく引き算としての薄塗りの特徴を見事に生かすことに成功した作品であると感じました。
     コバルトブルーの様な鮮やかな青が真ん中斜めに、左側はほぼ白に近く、緑やベージュを配して奥は薄紫という大胆な色彩構成。そして塗ってあるかわからないほどのキャンバスの地の色に寄せて作り上げた抜け感。ほのかに滲みを入れた表現。卓抜なバランス感覚の持ち主だと思いました。
     どこにでもありそうな一風景をどこか違う世界に連れていってくれるような、引き込まれまたすっと気持ちを解放してくれるような非常に魅力的な作品でした。
     今後のさらなる発展、展開も期待したいと思います。

萱アートコンペ2021 審査講評  
丸田恭子 
2021/10/05

     コロナ禍での巣ごもり状態が多少影響を及ぼしたかはわかりませんが、応募作品の総数は今まで中で最多となりバラエチィーに富んだ作品群の中での審査はそれぞれの作品が拮抗していることもあり大変苦労致しました。

     審査員の意見も見事に分かれ、圧倒的高得点ですんなり受賞者が決まるということはなく話し合いや最終的には挙手による選出となりました。ただの数字
    で割り切ることができないという芸術の面白さでもあると思います。
     無難な感じで収まっている作品よりも賛否両論あり、荒削りであったり未熟さが垣間見えたりしていても、限られた情報からの判断とはいえ、何かをやろうとする意志が見える作品にはやはり惹かれることとなりました。
     受賞外、選外であったとしても決して落胆する必要はないと思います。
     また一つの傾向としてデジタルを使う作品が見られるようになってきており、その可能性としての幅は残しておきたいと感じました。
     
     作品と向き合うという作業自体は、世の中の状況とは直接には関わりがないとはいえ、意識的、無意識的に関与していることは事実だと思います。今回直接コロナ禍を扱い言及しているものはありませんでしたが、この困難な状況は創造へと転換、昇華していくものと考えます。

     このコンペを一つの踏み台としてさらなる飛躍に結びつけていって頂ければ嬉しい限りです。

萱アートコンペ2020 審査講評  
丸田恭子 
2020/10/04

     個人的には去年よりも今年の方が作品の拮抗している感が強く選出に苦労しました。

     このコンペの特徴でもある小品という特質性は限られた大きさゆえの限られた情報ということもありますが、手触りとイメージが直に伝わってくるということも言えると思います。そこで受賞された疋田義明氏、小林大悟氏、長雪恵氏のお三人に特徴的だと感じたのは物質性、質感の特性が際立って作用していたということです。

     疋田義明氏の作品は時間の流れを入れ込み筆のペインタリー性を駆使しながら内面性を掘り下げていく行為がうまく作用し寂寥感と自立感が画面の大きな空間のある構図から感じられるような気がしました。
     小林大悟氏の「ごきげんなつがい」も大胆な構図の中、質感の違う黒の塊がとても印象的でした。
     長雪恵氏の「すすむ」も彫り込まれた木の特徴を生かし独自の世界を開拓しています。

     吾郷佳奈氏の「エンドレス」は小さなボックスの中にガラスを使い単純性と複雑性を絡めさせ明快さとある種の潔さのようなものに魅力を感じ他の作品も見てみたいと思わせてくれる作品でした。

     このコンペの位置付けとはどういうものであるかと色々考えさせられますが、出品される方は少なくとも制作に携わってきた年数に関係なく純粋に何かを具現化したいという思いが根底にあることに変わりはないと思います。このコンペを一つの通過点として、次なる飛躍を見つけるきっかけとなってくれればと切に願っています。

萱アートコンペ2019 審査講評  
丸田恭子 
2019/09/24

 今回の4回目『萱アートコンペ2019』では作品の数も増え、小品とはいえ多種多様な表現と真摯に向き合う中、念頭に置いたのは、美術の歴史を踏まえた上での今という時代の位置の認識と共に、目指す地点が見える作品であるかどうか。そして難しい判断を迫られることになるが、それが機能し成功しているかどうか、ということでした。

 残念に感じたのは作品の完成度が高くても他者(過去、現在)の作品を彷彿させてしまうものが多かったように思う。

 今回の大賞作品はトーンや線の動きを極力抑えた画面にゆっくり入り込むことができ、またこちら側にも浸潤していくような魅力を感じ高得点を入れることとなった。そして入選外となった作品の中にももう一歩進めればよりよくなるであろう魅力的要素を持つ作品があったことを付け加えておきたい。

審査員紹介「丸田恭子」 >>