萱アートコンペ2023 審査講評 奨励賞受賞作について
石川利江
2023/9/15
大きな蔵の壁に掛けられた沢山の作品。この中から作品を選ぶということの難しさに目まいがするほどであったが、ひとつの作品の前に導かれるように立っていた。厚く塗られた白は様々な位相の色を含んだ「白」であり、所々に地層のように赤褐色が覗いていた。キャンバスはパッチワークされたピースにより構成され、糸による縫い目は、慌ただしく行われた手術跡のように感じ、手芸的な手業には見えなかった。
もう20年ぐらい前だが、福岡アジア美術館で、東アジアの女性作家の展覧会を見た時、糸、布、髪などを素材やテーマにした作品が多く、少し息苦しくなったことがあった。今回、作者が女性であることは後で知ったが、糸、縫い目にまつわる女性性とは一線を画した表現であり、私には傷跡に見える縫い目が、作家の作品との格闘というか、作品に向き合った時間の重さとして、心に残った。タイトルからも《stitch=縫い目》が大きな意味が与えられているようだ。手術跡のようなというのが第一印象であったが、よく見ると丁寧な縫い目である。しかしやはりどこかに無惨なというと言い過ぎだが、傷を縫い止めたような感触が感じられ、それが心に残った。この人の他の作品を見てみたいと思った。