萱アートコンペ2025 10/5~10/26

Comment by Minoru Nakajima

萱アートコンペ2025審査評
中嶋実
小海町高原美術館
学芸員
2025ゲスト審査員 
2025/9/15

     萱アートコンペは10周年を迎えた。10年続くということは多くの関係者の熱意があったからに他ならないと思う。まずは敬意を表したい。継続して多くの応募があり、素晴らしい作品が特異な空間に一堂に陳列される様は、芸術文化の果たす役割をみたようで美術関係者として大きな喜びであった。
     155点の作品は技法が異なる力作が多く、初めて見たときと全体を見た後では印象が変わり、限られた時間で作品を選ぶ作業は思った以上に過酷であった。学芸員として多くの作品を見てきた経験をベースに、作品が発する力、オリジナリティ、コンセプト、完成度、今後の期待値を問いつつ、作品の「わからなさ」を大切にして向き合わせていただいた。わからなさは、抽象、具象を問わず存在する。何が描かれているかが言語化されたとき、我々はわかったと思いがちだがそれは違う。そこが出発点となり、さらにわからなくなるからだ。前述のポイントとわからなさを自問自答しながら深い対話を重ねることができる作品を選ばせていただいた。
     「大賞」の吉浦眞琴氏「oasis/よく通る庭」は赤、緑、黒の色彩と形態がせめぎ合い、作品に近づくとドライポイントの筆致のリズムと躍動が見えてくる魅力的な絵画空間をもった作品だ。馴染みの庭なのだろうが作家の意思が鑑賞者と作品の間の空間にまで「よく通る」作品であった。
     「佳作」のティデン氏「満開」は刺繍と絵具の点描が共存し、漂うような浮遊感が気になる作品だ。他の審査員からの指摘で向き合って手を握り合う2人の人間の像が浮かび上がった。抽象か具象か、それが作品の評価に影響するのか、様々な意見が出たことは作品の持つ力であったと思う。今後の期待値の高い作家であったし、本コンペが受賞作品に選ぶことの意義を感じた。
     「森と人と賞」の栗田なおみ氏「記憶のカケラⅡ」は青を基調に透明感のある画面が魅力的な作品だ。審査をするうえで作家の年齢が気になることがある。審査の際は作品名のみ提示されていて気になった場合は事務局に問い合わせることができるが、年齢を伺った最初の作品だ。思った以上に年齢を重ねられていてすこし驚いた。遠近法と色彩によって強調された果てしない道程がみえてくると歳を重ねることはネガティブなことではないという希望を感じさせた。
     出品された全ての方には制作を続けてほしいと思う。そして萱アートコンペ10周年の区切りは未来への起点でもある。実績に甘んじることなくさらに発展することを願う。