萱アートコンペ2025 審査講評
丸田恭子
2024/9/18
当初の合計点数を基準とした審査方法から今は審査員のそれぞれの意見をより尊重する形に変わりました。どのような審査方法がベストなのか分かりませんが、今までゲスト審査員が加わるなど審査員メンバーも少しずつ変わってきている中、審査する方々によって見事に意見が分かれることが多く人によってこれほど違うものなのかとその感は年々強くなり興味深いところです。評価の絶対的基準があるわけではなく線引きが難しいのは当然で審査員の背景、経験、認識、好み等反映されるわけですが、(評価自体おこがましいことかもしれませんが)大変難しいながらもある一定のところ妥当なところに落ち着く感はあります。
ここでひとつ絵画の最大の特徴として言及しておきたいのはあらゆるメデイア媒体の中で唯一二つの次元にまたがるものであるということです。平面としての2次元と物質としての3次元を併せ持つ魅力的な媒体であるということです。たとえ薄くとも絵の具がのっている時点でその質感は3次元という私達が暮らしている次元に片足を乗っけることになりある種安堵感に包まれると共に、もう片方の足は2次元という色と形からなるイメージに乗ることとなり両次元は絡まり合ってさらなる深い領域にベクトルは向かいます。
このアートコンペにおいては比較的質の高い版画作品が多いと思われますが、より2次元に近い版画(印刷物はもっと2次元に近くなりますが)が物質性を加味した領域を凌駕するだけの圧倒性があるのかどうかは問われることになるのだと思います。今回は版画のもつその特性その辺をより強く感じ意識することとなりました。
そうした中で私が注目したのは桑野冴佳さんの「変幻の景」でした。まずほぼ中心に視線がいく分割方法、無難な黄金比率に収めるのではなくこの大胆な構図が全体の緊張感を生み出し、右斜に向かう部分は色を落としバランスが保たれています。そしてぼんやりとした上下斜めに走るグレーの線は奥行きを感じ、また緑の光る素材や銀箔らしきものがさらなる層を作り出し、さらに細いドローイング的な白い線が重層さを増しています。下の黒い部分はマットな墨を使っているらしく上の白っぽいところはまるでパステルでも使ったような質感、大胆な構成の中色々な音色が降り注ぐ交響曲のようにも感じました。
またtoolさんの「緑、ブルー、円いもの」この作品も素材の組み合わせの面白さに興味を惹かれました。
いずれにしてもここに出品してくださった方々の背中をポンと押すことができ制作を続けていくためのきっかけ作りができればと思います。
萱アートコンペ2024 審査講評
丸田恭子
2024/9/16
萱アートコンペ2023 審査講評 大賞受賞作について
丸田恭子
2023/9/15
萱アートコンペ2021 審査講評
丸田恭子
2021/10/05
審査員の意見も見事に分かれ、圧倒的高得点ですんなり受賞者が決まるということはなく話し合いや最終的には挙手による選出となりました。ただの数字
で割り切ることができないという芸術の面白さでもあると思います。
無難な感じで収まっている作品よりも賛否両論あり、荒削りであったり未熟さが垣間見えたりしていても、限られた情報からの判断とはいえ、何かをやろうとする意志が見える作品にはやはり惹かれることとなりました。
受賞外、選外であったとしても決して落胆する必要はないと思います。
また一つの傾向としてデジタルを使う作品が見られるようになってきており、その可能性としての幅は残しておきたいと感じました。
作品と向き合うという作業自体は、世の中の状況とは直接には関わりがないとはいえ、意識的、無意識的に関与していることは事実だと思います。今回直接コロナ禍を扱い言及しているものはありませんでしたが、この困難な状況は創造へと転換、昇華していくものと考えます。
このコンペを一つの踏み台としてさらなる飛躍に結びつけていって頂ければ嬉しい限りです。
萱アートコンペ2020 審査講評
丸田恭子
2020/10/04
このコンペの特徴でもある小品という特質性は限られた大きさゆえの限られた情報ということもありますが、手触りとイメージが直に伝わってくるということも言えると思います。そこで受賞された疋田義明氏、小林大悟氏、長雪恵氏のお三人に特徴的だと感じたのは物質性、質感の特性が際立って作用していたということです。
疋田義明氏の作品は時間の流れを入れ込み筆のペインタリー性を駆使しながら内面性を掘り下げていく行為がうまく作用し寂寥感と自立感が画面の大きな空間のある構図から感じられるような気がしました。
小林大悟氏の「ごきげんなつがい」も大胆な構図の中、質感の違う黒の塊がとても印象的でした。
長雪恵氏の「すすむ」も彫り込まれた木の特徴を生かし独自の世界を開拓しています。
吾郷佳奈氏の「エンドレス」は小さなボックスの中にガラスを使い単純性と複雑性を絡めさせ明快さとある種の潔さのようなものに魅力を感じ他の作品も見てみたいと思わせてくれる作品でした。
このコンペの位置付けとはどういうものであるかと色々考えさせられますが、出品される方は少なくとも制作に携わってきた年数に関係なく純粋に何かを具現化したいという思いが根底にあることに変わりはないと思います。このコンペを一つの通過点として、次なる飛躍を見つけるきっかけとなってくれればと切に願っています。
萱アートコンペ2019 審査講評
丸田恭子
2019/09/24
今回の4回目『萱アートコンペ2019』では作品の数も増え、小品とはいえ多種多様な表現と真摯に向き合う中、念頭に置いたのは、美術の歴史を踏まえた上での今という時代の位置の認識と共に、目指す地点が見える作品であるかどうか。そして難しい判断を迫られることになるが、それが機能し成功しているかどうか、ということでした。
残念に感じたのは作品の完成度が高くても他者(過去、現在)の作品を彷彿させてしまうものが多かったように思う。
今回の大賞作品はトーンや線の動きを極力抑えた画面にゆっくり入り込むことができ、またこちら側にも浸潤していくような魅力を感じ高得点を入れることとなった。そして入選外となった作品の中にももう一歩進めればよりよくなるであろう魅力的要素を持つ作品があったことを付け加えておきたい。